今までのマスクの常識

マスクが最も効果を発揮するのは咳やくしゃみがある人がマスクをつけた場合です.風邪やインフルエンザ患者は1回の咳で約10万個、1回のくしゃみで約200万個のウィルスを放出すると言われています.そこで、患者がマスクをつけることでこれらを含んだしぶきによる周囲の汚染を現象させることができます.

風邪やインフルエンザ(新型コロナウィルス)にかからないためにマスクをつけても、その効果は限定的と言われています.なぜなら、顔とマスクとの間に隙間があり、ウィルスを含んだ飛沫の吸入を100%防ぐことはできないからです.また、ウィルス自体の粒子径は0.1~0.2μmですが、咳やくしゃみではウィルスに水分をやほこりが付着し、粒子径は5μm以上とやや大きくなるため、すぐに短い距離に落下し、空間を漂うことはないからです.さらに、環境や衣類に付着したウィルスが手によって呼吸器に運ばれ感染することはできないと言われています.但し、風邪やインフルエンザ(新型コロナ)患者の近くで看病するなど咳やくしゃみのしぶきを直接浴びる可能性がある場合には予防効果があると考えられていました.

[出典:自治医科大学附属さいたま医療センターHP参照]

2.WHOのマスク着用の見解

WHOの見解はこれまで「症状がなければマスク着用は必要ない」というスタンスでした.しかし、新型コロナウィルス感染拡大防止のためのマスク利用の指針を改正し、流行地では公共交通機関利用時など人同士の距離を取ることが難しい場合、他人に感染させないためにマスク着用を推薦すると表明しました.

 手作りの布マスクでも、正しく作成すれば問題ないという.

WHOは従来、自覚症状がない人も含めた広範なマスク利用は「効果が明らかでない」と否定的でした.現在も十分なデータがないとする姿勢に変わりはないと云われています.しかし潜伏期間中に感染する可能性も判明してきたことから、「発症前の人から感染するリスクを減らせる」など利点があるとの見解に修正しました.

布マスクは、それぞれ異なる材質で最低3層の構造にすることが望ましいという

WHOは、流行地では60歳以上や持病がある人の場合、医療用マスクを着用することを勧告しました.いまではWHOもマスク重視のスタンスです.WHOは無症状の感染者から感染拡大を広めないためにマスク着用が必要と考えています.特に他人に感染させないためにというところがポイントです.自分がかからないためにマスクをするのではないという点を十分理解する必要があると云われています.

[出典:時事通信(2020年6月6日)参照]

マスク着用、新型コロナ拡大を4割抑制できる-ドイツの調査が示唆

 マスクの着用によって新型コロナウイルスの感染拡大を40%抑えられることが、ドイツの調査で示されたと言われています。この調査はドイツ国内でマスク着用が奨励された地域での感染実態を基にまとめられました。

 ボンの労働経済学研究所(IZA)が発表した論文によると、
『人口10万8000人のイエナは他の都市よりも早く4月6日に公共交通機関や商店でのマスク着用を義務付けたところ、今では新規の感染がほぼゼロになった。イエナより数日、あるいは数週間遅れてマスクの着用方針を採用した他の地域の多くでは、新型コロナの感染拡大が続いた。同調査はイエナと人口構成や医療システムが似ている市町村の住民を加重平均で調整し、このグループとの比較で、イエナの感染動向が4月6日を境にどう変化したかを分析。論文によれば、マスク義務付け以降にイエナで確認された新規感染例は同グループより25%少なかった。この差はドイツの大都市との比較ではさらに顕著だという。』

マインツ大学のクラウス・ウェルデ氏ら論文の執筆者は、新型コロナ感染拡大の防止策としてマスクは非常にコスト効率が高いようだと指摘したと言われています。

[出典:公益財団法人長寿科学振興財団 文献参照]

変化してきたマスク着用の意義

 新型コロナウイルスが出現する前と、今とでは、マスク着用の意味は変化しています。出現前では、「マスクは今咳がある感染者がこれ以上感染を拡めないためにおこなうもの」という認識が一般的で、咳などの呼吸器症状がない人がマスクを着用する意味はあまりないという医療従事者・医療関係者の見解でした。
 しかし、新型コロナウイルス感染症が広まり、無症候の感染者が数多くいることがわかり、発症する前から飛沫感染を引き起こすことが判明してきました。しかも発症2日前の潜伏期間が最も感染力が強いという報告もあると言われています。こういった状況から、感染拡大を防ぐためには、呼吸器症状のある人はもちろん、無症候の人も含めて全員マスクの着用を推奨するという考え方に変化してきました。
 つまり、マスクの着用は、「症状がある人が感染を拡めないため」「症状がない人も新型コロナウィルス感染症にかかっている可能性があり、他の人に感染させないため」の2点が着用する目的です。

新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果

 東京大学、慶應義塾大学、国立病院機構仙台医療センターが共同で行った感染症を持つウイルス飛沫に対するマスクの防御効果実験について、米国科学雑誌「mSphere」オンライン版で2020.10.21に公開されました。
 その結果、マスクを装着することで新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の空間中への拡散と吸い込みの両方を抑える効果があることがわかりました。また、N95マスクは最も高い防御性能を示しましたが、適切に装着しない場合はその防御効果が低下すること、また、マスク単体ではウイルスの吸い込みを完全には防ぐことができないことがわかりました。

 新型コロナウィルス感染症に対するマスクの防御効果とその効果を十分に発揮する条件が明らかになったことで、適切なマスクの使用方法への啓発に役立つことが期待されます。

実験結果①距離によるウイルスの吸い込みへの影響

 吐き出す側のマネキンと吸い込む側のマネキンの両者の距離とウイルスの吸い込み量との関係について調べたところ、ウイルスを放出するマネキンから離れるにしたがって、新型コロナウィルスの吸い込み量が減少することが分かりました。その一方で、1m離れていてもウイルスは吸い込まれることが分かりました。

実験結果②マスク装着によるウイルスの吸い込みの防止効果

 ウイルスを吸い込む側のマネキンに各種のマスクを装着させて、ウイルスの吸い込み量を調べました。その結果、布マスクを着用することでウイルスの吸い込み量がマスクなしと比べて60-80%に抑えられ、N95マスクを密着して使用することで10-20%まで抑えられることがわかりました。
 一方で、N95マスクは隙間をふさいだ密着条件で使用しないとその防御効果が低下することが、さらに、隙間を完全にふさいだとしても一定量の新型コロナウィルスがマスクを透過するということがわかりました。

実験結果③マスク装着によるウイルスの拡散防止効果

 ウイルスを吐き出させる側のマネキンにマスクを装着させて、新型コロナウィルスを空間中に噴出させると、マスクの装着によりウイルスの吸い込み量が大きく低下することが明らかとなりました。

[出典:本研究成果は、2020年10月21日(米国東部時間)、米国科学雑誌「mSphere」オンライン版で公開されました。なお本研究は、東京大学、慶應義塾大学、国立病院機構仙台医療センターが共同で行ったものです。本研究成果は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症研究基盤創生事業]